- #RGB−SYSTEM
- 開発コードでRGBシリーズと呼ばれる、軌道ステーション“Blue Sky”において開発された新機軸戦闘機群は、真統一理論に基づく三位一体のシステム“RGB−System”をその性能の基盤としている。
- ・R2CS(Rapidity-Reverce Control System/Rシステム):速度反転制御機構
- 述べるまでもないことではあるが、戦闘機において最も基本かつ重要な要素は、その機動性である。撃墜されなければ負けはない、ということだ。その機動性を司るRシステムは、Gシステムによる重力勾配加速と通常のロケット推進による反作用加速を併用して、最大速度で光速の70%にも迫る亜光速機動を可能としている。そして、更に重要なことだが、光速の50%に達した時点で不安定になる時空の歪みを拡大・反転、逆に周囲の時間の流れを遅くすることによって、光以外の全てを目視で回避することを可能としている(この状態を「超加速状態」と呼称する)。これは重力場を制御するGシステムの応用発展機能である。詳しい計算はスペースを取りすぎるので割愛するが、アインシュタインの相対性理論にも述べられているとおり、重力の作用と時空の歪みは等価であり、つまり重力場を制御できるということは、時間と空間の間に生ずる速度というパラメータを操り、ひいては時空そのものを制御できる、ということである。
また、このRシステムがもたらす桁外れの機動性能は、亜光速前進時に最大速度から減速開始後、体感時間0.0166秒でマイナスまで逆加速するという、戦闘機にあるまじき離れ業すらも可能としていた。
- ・G2CS(Gravity-Gradient Control System/Gシステム):重力勾配制御機構
- 球状範囲内の重力場の勾配を制御することによって、光子暦において最後の難関とされた重力子の流れを制御することを可能とした機構。イメージ的には、砂箱の底面(重力場)を傾けて中の砂(重力子)を操ることができる、という感覚に近い。このGシステムによると、ロケットモーターの反作用によらずとも重力場を傾けて加速することが可能であり、これがRシステムの実現に必要不可欠な瞬間的加減速に大きく寄与している。
尚、先の例えで言うところの「砂箱の内部」、つまりGシステムが重力場に影響を及ぼすことが出来る範囲は「重力子フィールド」と呼称され、実際には影響力が機体重心からの距離の2乗に反比例する球状の範囲(計算上は有効半径∞だが、実際にはある程度離れると効力が殆ど消滅する)となる。Gシステムが保持する重力子フィールドは機体全体を覆い、Rシステムが提供する亜光速機動による破壊的な慣性力から、機体は勿論、内部のパイロットをも保護し、戦闘機動に追従させることを可能とした。
ただし、この重力場制御の実現には、Bシステムの存在が不可欠である。
- ・BIOS(Brain-Identify Operating System/Bシステム):間脳知覚制御機構
- 根幹となる機体制御機構。RGBシリーズのOSであり、機体全体の制御はこのBIOSを介して行われる。そして、「有人戦闘機」である最大の意味がここにある。
驚くべきことに、RGBシリーズのコンピュータは電脳ではない。人間の脳そのものである。これは通常とは全く逆の発想で、機体制御に必要な情報を機械に処理させずに逆にパイロットの間脳に処理させてしまう、というものだった。そのせいもあって、パイロットが搭乗したRGBシリーズの戦闘機は外部からの強制命令に決して応じず、アニヒレィスの支配下に入ることも無かったのである。
また、機械ではなく直接生身の脳で機体制御を行うこと自体にも、大きなメリットがあった。まず、外部のプロセッサを通さずに処理できるので、非常にダイレクトな操作感覚が得られたこと。イメージレベル以上の操作技術というものが全く必要なくなったのである。そして、脳の生体ニューラル・ネットワーク構造が重力子の制御に非常に適していたこと。光子暦197年においても機械のプロセッサに能動的に重力を制御させる技術は未だに確立しておらず、たとえ生体計算機で実行してもそれは同じことだったが、しかし実際の生物における「無意識」の部分は、自身の防衛という限られた条件のもとだけではあるが、人間自身が根本的に有するDNA群の二重螺旋構造を利して、いとも容易く重力子を制御してみせるのであった。左右の脳に極性をかけた特殊な状態における間脳とDNA群は、超弦理論における「ブレイン」と等価な働きをするものであり、何と4次元時空上から11次元の存在を感知、制御することが可能だったのである。その制御を媒介するものが、3つの原色粒子の中で唯一使い道が無いとされていたB粒子であった。
尚、脳の処理速度はどうあがいても光子プロセッサの処理速度よりも10桁以上遅いのであるが、しかし亜光速で飛来する弾丸を光子プロセッサで認識して避けるよりは、Rシステムによる超加速状態に移行し、目視で認識できる速度まで相対的に減速した弾丸を脳で判断して避ける方が、反応速度的にも、機体耐久性という観点から見ても、断然割が良かった。
≫関連項目:BiFCS/パルス波に対するB粒子の挙動
つまりRシステムはGシステムに、GシステムはBシステムにその基礎部分を依存するのであるが、しかし最も基礎となるBシステムもRシステム無くしてはその本領を発揮しえず、3つのシステムは連鎖的に依存する密接な関係を持っている。これら3つの要素がそれぞれの機能を十全に果たしたとき、RGBシリーズはもはや並ぶものの無い驚異的性能を発揮するのである。
しかし、RGBシステムにも欠点はある。機体制御が複雑になればなるほどパイロットの脳に直接負荷がかかるので、特に強力な重力場制御を連続して行うと、場合によっては過負荷に耐えられずニューラル・ネットワークが暴走、精神に破綻をきたすことがあった。また、加速状態で突然システムダウンした場合には、同時にGシステムに支えられていた重力子フィールドが崩壊、中のパイロットは圧死を免れなかった。リミッターを設けることによって対策は立てられたものの、RGBシリーズがこのシステムによって稼動する限り、絶対的に安全にはなりえなかった。
よって、パイロットには操縦に対する技量よりも、この負荷に対する特別な適正が要求された。
- ・Color(カラー):システム安定度数
- 前述の理由から、RGBシステムの安定度はパイロットの精神の安定と密接に関係している。よって、パイロットの精神状態からシステムの安定状態を定式化し、システム安定度数Cを以下のように定義する。
C = 21/∇s(x,y)−1 [Color]
ここで、sは精神状態関数であり、x,y2つの要素によって構成される曲面である。sの勾配∇sはすなわち精神の不安定さであり、これが1を超えるとき、精神は不安定であるとされる。∇sが1を超えるとそれは2のべき数1/∇sが1未満となることと等価であるから、このときC≒20−1=0となる(端数切り捨て)。つまり、普通未満の精神状態において、Cは常に0という値をとる。また、精神が安定して勾配が小さくなったときも、xとyが完全に独立ではないため、∇sの極小値は1/8で、このときCは極大値255をとる。
実際のシステム運用に際しては、C=0の時にはRGBシステムはパイロットの保全を第一とするセーフティーモードで稼動し、精神状態に余裕がありC≧1となった場合にはその値に応じて段階的にリミッターを解除、拡張能力を開放することが出来る。
人間の精神の変化を時間に関する微分方程式として定式化するのは困難であるが、強襲作戦に参加する戦闘機パイロットの場合、システム安定度の変化率dC/dtは「後方に敵機を見逃した場合」に負の値、「敵機を被弾させた、或いは撃墜した場合」に正の値をとることが多いことが経験則的に知られている。また、出撃直後は誰しも幾分の緊張があるため、C≧1となることは殆ど無い。
- #FCS(Fire Control System):火器管制機構
- BiFCS(Brain-interface Fire Control System):間脳界面式火器管制機構
- FCSは戦闘兵器にとって必要不可欠なものであるが、RGBシリーズにおける火器管制機構BiFCSは、脳波コントロールシステムであるBIOSのサブシステムとして存在する。このBiFCSには用途によって既に幾つかのバージョンが存在するが、サブシステムとはいえある程度の独立性を保っており、BIOSの新旧によらず、自由に換装する事が出来た。
現時点でその存在が確認されているものは、以下の4つである。
BiFCS-STR : 直線的射撃用途に特化したFCS。ブリッツが装備。
BiFCS-SPR : 1対多数戦闘に特化した拡散兵装用FCS。ローアイゼンIIが装備。
BiFCS-LOCK : ロック機能を有するFCS。ゲミュートが装備。
BiFCS-EXAM : 試験用に全ての機能を持ったFCSだが、その分扱いが煩雑になる。アルスター改が装備。
- 参考:一般のFCS
- DT-025S : DT社製標準FCS。特に直線射撃兵器用。
DT-025Sp : DT社製スプレッドFCS。拡散兵器用。
DT-026A : DT社製攻撃機用FCS。段階加速砲用。通常射撃にも対応。
DT-028M : DT社製マルチFCS。複数システム併用に対応。
SUN-002S : Sunny-Corp製廉価版FCS。稀に機能不全を起こすが、圧倒的に安価。
ALEN-CCS : ALEN社製切り替え式FCS。安定性に定評がある。
ALEN-LINK : ALEN社製連動FCS。主に偵察機用。
- #各種反応炉
- ・Photon Reactor(フォトン・リアクター):光子反応炉
- 光子反応炉(フォトン・リアクター)は光子暦における技術の代名詞にして標準的エネルギー発生源であり、RGBシリーズ各機のメイン・ジェネレータとしても採用されている。しかし、標準的とは言うものの、RGBシリーズに搭載されたそれは永きに亙って追及された効率研究の結晶とも言うべきものであり、破格の高出力を要求するRGBシリーズの性能を発揮するに十分な出力を持っている。
原理的には、α粒子(ヘリウム原子核)を変成させて最終的に重力子を生成、それが自発的に相転移して質量を失うことによって、α粒子の質量エネルギーにほぼ等しい余剰エネルギー(最終的にγ線という形式になる)を得る、というものである。その臨界反応に最も必要とされるのがα粒子の質量エネルギーであるが、しかしサブシステムの錬金炉によって任意の粒子を一度原色粒子まで分解し、α粒子として再構成することが可能であったから、燃料としては質量を持つ物質粒子であれば結局何でも良かった。サブシステムとして錬金炉を持つものを完全循環炉、持たないものを単純反応炉と区別するが、完全システムを目指して設計されたRGBシリーズに搭載されるものは無論前者の完全循環炉である。
尚、光子反応炉は結局γ線という形式の光子から各種エネルギーを得ている(光子機関には周波数を揃えた調律光波を、電磁機関には光電効果から得られる電圧を利用している)ので、燃料の原料である任意物質粒子すら不足する際には、光電変換器を外部に対して緊急開放し、太陽電池として周囲の光エネルギーを採取することが理論上可能であり、RGBシリーズ各機は例外なくこの機能を実装していた。その場合、出力は常時に遠く及ばないものの、パイロットの生命維持には事欠かない程度のエネルギーを得ることが出来たから、決して無駄な機能ではなかった。
光子反応炉の模式的構造図を右に示す。
ただし、
α:α粒子(He2+)
α*:α*(アルスター)粒子
β:電子(e−)
β*:陽電子(e+)
γ:光子
Hi:ヒッグス粒子
g:非励起重力子
Z0:Z0粒子(ウィークボゾン)
He2:気体ヘリウム
X:任意物質粒子
Ep:光子エネルギー
Ee:電磁エネルギー
mp:陽子質量=9.1093897×10−27[kg]
me:電子質量=1.6726231×10−31[kg]
とする。
通常、燃料としてHe2を投入すると、分極器の強電界によってこれから電子を引き剥がし、α粒子を生成する。この分極器は同様に強電界を用いる電荷発生環に併設される事が多く、完全循環炉の場合は錬金炉と併せて3つで1つのブロックを形成していることも珍しくない。
次に、炉心において
のα−γ過程を経てα粒子の質量エネルギーを光エネルギーに変換する。このとき放出される光子の数は不定であるが、エネルギー総量は非励起重力子の質量エネルギー256mpc2に等しくなる。
そして、発生した光子をエネルギーとして用いるわけであるが、その大半(252/256=63/64)は電荷発生環に送られて対消滅反応で電子と陽電子を生成、それぞれ炉心へとフィードバックされる。まどろっこしいようではあるが、α*粒子の電子軌道上でこの電子と陽電子を対消滅させ、一定波長かつ一定位相の光子を原子核に吸収させないと炉心の反応が進まないわけで、また、一度炉心の反応を止めてしまうと、再起動するためにこのシステムの最終出力の64倍以上ものエネルギーを他から供給するのにどれだけ苦労を要するかは想像に難くない。
結局、残りの1/64のエネルギーから分極器と電荷発生環、完全循環炉の場合はそれに加えて錬金炉の稼動に必要なエネルギーを差し引いてこれを光子反応炉の最終出力とする。ただし、それぞれのサブシステムにおいて要求されるエネルギーは電磁気力であるから(初期の光子反応炉設計当時に光子動力機関などまだ存在していなかったから、当たり前といえば当たり前である)、これを光電変換器(高効率太陽電池)で電力に変換、それぞれの装置へと送電する。
最後に、半ば外部機関の錬金炉においては、この電力を元にして原色粒子を制御、任意の物質粒子を分解して目的の物質粒子、この場合は主に反応炉における主燃料のα粒子、或いは不足分のZ0粒子へと組み替える。こちらの場合、光子反応炉と違って一度反応を止めたとしてもR粒子のストックさえあればすぐに再開することが出来たから、緊急出力を要する場合には錬金炉を停止してエネルギー生産効率を幾分上げることが可能であった。しかしそれでも足りない場合、最後の手段として電荷発生環への光子供給を完全に停止してフィードバック分のエネルギーを全て放出すれば、ほんの一瞬ではあるが、通常の64倍もの瞬間出力を引き出すことが可能である。ただ、それから通常出力に復帰するのにどれだけの労力を要するかは前述のとおりであり、一度に膨大なエネルギーを扱うためにシステムの末端がその負荷に耐えうるのかなど、他にも様々な問題点がある。
尚、炉心の構造材は度重なる改良によって(通常の運転においては)熱や粒子の漏洩が殆どなくなっており、光子の伝達は高張力光ファイバー、電力の伝達は自立超伝導ケーブルによって行われるから、エネルギー伝達系統での損失は0であるとして差し支えないが、炉心と電荷発生環の間の「光子→電子+陽電子→光子」のサイクルを辿る際には、扱うエネルギーの膨大さ故に僅かにエネルギー漏洩が発生する。このときのエネルギー漏洩率をk[%]とすると、最終エネルギー換算の際に64k[%]の損失が発生する。1%漏れると全体の半分以上が無くなり、2%漏れるとむしろ28%のエネルギーを消費するようになってしまう、という重要な係数である。ただ、現在においてはその高効率化は行き着くところまで行っており、例えばRGBシリーズの炉心においてはk=0.13[%]、64k=8.32[%]であり、むしろ電力システムに対しての光電変換率ηp=72[%](損失28%)の方が大きな問題となっている。
≫関連項目:光子反応炉の発電効率
- ・Alchemic Reactor(アルケミック・リアクター):錬金炉
- 先に断わっておくが、錬金炉はエネルギー発生機関ではない。任意の粒子を一度最小単位の原色粒子まで分解し、原色合成によって任意の素粒子を生成、それらを組み合わせてあらゆる粒子を合成する「物質変換炉」である。そういった機能から、かつて中世欧州で研究された錬金術になぞらえて錬金炉と呼ばれるわけだが、勿論そのような魔術じみた手段などは用いない。錬金炉は、光子反応炉と並ぶ(或いはそれに含まれる)光子暦の技術の代表的実現形態の一つである。
錬金炉は基本的には光子反応炉のサブシステムであるが、他のブロックのように単一機能で実現できるものではなく、また、それ自体独立した用法も可能である。錬金炉の構造は、大まかに分けて3つのセクタから成り、それぞれ分解・貯蔵・合成の機能を受け持っている。
まず、分解セクタ。これはR粒子の結合破壊特性を利用したもので、後述のMRPの基となる機能を有している。原理的にはR粒子にエネルギーを与えて色量子数ncを適宜調整、それを物質粒子に衝突させることによって粒子の結合を破壊、原色粒子にまで分解する。
もう少し込み入った説明をすると、R粒子は他の粒子と同じように粒子性と波動性の二面性を持つわけだが、R粒子がエネルギーを持つとき、その波動性に由来する量子的励起状態になる。R粒子がその励起状態における量子数(原色粒子の場合、特に色量子数ncとする)に対応する複合粒子に干渉したとき、自らのエネルギー全てを失って基底状態になる代わりに対象の結合を根本まで破壊、最小レベルの原色粒子にまで分解してしまう、というわけである。
そして、ただ分解するだけでは意味が無い。分解されたそれぞれの原色粒子を、種類ごとに分別しなければならない。この原理は至極単純である。分解セクタの炉心は主に円筒状になっているが、その円筒の天蓋と底に極性をかければ、それぞれ正、負の電荷を持っているR、G粒子は各々その反対の電極へと引き寄せられる。あとはその天蓋と底の部分に設けられた半透体フィルタを通してやれば、イオンや電子、その他の電荷を持った素粒子を分別して、ほぼ100%のR、G粒子が採集できる、というわけである。
また、B粒子は電荷を持っていないが、代わりに磁界に追従する性質を持っているので、先に述べた縦方向の電界によって、基本的には円筒内を周回し続ける。その状態で円筒の中心軸から側面に向けての微弱な磁界をかける(側面に沿った円電流を発生させる)と、B粒子は徐々に回転半径を増し、最終的に円筒側面へと辿り付く。あとは先程と同様に半透体フィルタを通し、その他の粒子と分別してやるだけである。
次に、貯蔵セクタであるが、このセクタは基本的に円環状で、その中心軸から外側に対して(或いはその逆方向に)電界・磁界をかけることによって、それぞれの原色粒子を一定の円軌道に固定する。つまり旧世紀から存在する円環粒子加速器の原理を用いた粒子コンデンサである。そういうわけで、原理的にも構造的にも最も単純なセクタなのであるが、大量の原色粒子の暴走を抑えながら円環内に溜め込むためには意外なほどに広い容積が必要で、多くの製品における光子反応炉が錬金炉を内包しない単純反応炉という形態を選択する一因にもなっている。
最後に、合成セクタ。このセクタでは、貯蔵された原色粒子をイオン打ち込み法の要領で、つまりは電荷量或いは磁化素子流量で粒子数をカウントしながら一定の割合で混合し、原色合成を行う。原色合成とは、R,G,B粒子それぞれを0から255までの整数値の比率で混合して、それぞれの粒子にその個数の逆比のエネルギーを与えることによって一種の素粒子融合反応を引き起こすもので、その比率さえ正確に調整出来れば、いかなる素粒子であろうと例外なく合成することが出来る。この辺りの手法が錬金炉という名称の所以と深く関連していることは言わずもがな、である。
合成された素粒子からは、需要に基づいて大抵は物質粒子が合成される。そもそも殆どの素粒子は安定していないので、特定の種類のクォークなどは互いに結合して複合粒子(陽子、中性子、或いは中間子)を構成し、最終的には複合粒子同士も結合、質量欠損分のエネルギーを放出して安定した原子核を構成する。その際放出されるエネルギー(主にγ線)は、次に粒子を分解する際に流用される。
以上の段階を経て生成された粒子は主にプラズマ状態で、特に錬金炉が光子反応炉のサブシステムとして使用される場合には生成されたα粒子(He+)がそのまま光子反応炉の炉心へと送られる。しかしそれ以外の場合、例えば普遍粒子を分解してレアメタルを生成したりする場合(要するに本来の「錬金術」を行う場合)には、プラズマ状態のままであったり、その辺に適当に固まっていたりするのでは流石に都合が悪い。そのためにはもう一つ、プラズマ状態の物質粒子を特定の状態に、例えば整然とした結晶構造に纏め上げるための機構が別途必要になってくるが、それは錬金炉自体の性能とは別のところにあるので、ここでは触れないこととする。
- ・Annihilation Reactor(アニヒレーション・リアクター):対消滅炉
- 物質と反物質を衝突させてその質量を光子エネルギーに変換する反応炉。燃料には主に電子と陽電子を用いる。この反応は光子反応炉においてはエネルギー生成過程の1段階に過ぎないが、しかし、多段階の連鎖反応を経て徐々に発生エネルギーを増幅、臨界状態へともっていく光子反応炉とは対照的に、対消滅炉ではこの原料を一気に反応させて爆発的なエネルギーを得る。問題は、この反応に適した燃料が等量の物質・反物質対に限られることで、そのために対消滅炉は予め光子反応炉なり錬金炉なりを用いて原料を生成しておかなければならない。
さて、これらの性質を踏まえて少々考えてみると、ここで既に1つの矛盾点があるように思える。それは、「そんな二度手間なことをするくらいならば、光子反応炉で発生したエネルギーをそのまま使ってしまえばいい」ということだ。この考えは、ある意味では非常に正論である。しかし、現実問題として、発生した電力なり光エネルギーなりを貯蔵できるだけのコンデンサ或いはバッテリーは、非常に大きな容積を必要とするのである。
つまり、対消滅炉の利点は、
1、大量のエネルギーを質量という形で保存出来、それが即時変換できること
2、単位時間あたりのエネルギー発生量が膨大であること
の2つということになる。このうち1は光子反応炉においても同様で、むしろ光子反応炉に比べると幾つもの不便があるのだが、2の単位時間あたりのエネルギー発生量については圧倒的で、単純計算で同容積の光子反応炉の更に64倍(光子反応炉の緊急時の瞬間最大出力と同等)という驚異的なものであった。しかしこの唯一の利点はそのまま最大の欠点でもあり、要するにそのような膨大なエネルギーを制御する手段がないために、数々の暴走経歴を持ちながらも、今のところこの対消滅炉は実用化の目処が立っていない。
- #特殊兵装
- MRP(Multiple R-Punisher/マルチプル・Rパニッシャー):汎段階粉砕粒子砲
- MRPとは、R粒子の結合破壊特性を応用した粒子加速性の兵器である。
原理的には錬金炉の分解層に用いられる結合破壊のためのR粒子ビームが元になっており、MRPとは、これを更に応用して、対象となりうるものの様々なnc(Feなら122、Tiなら100、Alなら95というように、物質ごとに決まっている)に対応する汎エネルギー帯を持つR粒子束を撃ち出し、対象を破壊する、というものである。例えば、相手の構成要素が主に鉄とチタンであったら、R粒子を加速して(運動エネルギーを与えて)nc=122にしたものと、同じくnc=100にしたものを混ぜてぶつけてやればよい、ということだ。要するに、必要なエネルギーに差こそあれ、このMRPに破壊できないものはまず無かった。
- #素材
- HGA(Hybrid G-Armour/ハイブリッド・Gアーマー/ヘイガー):結合力変動装甲
- HGAとは、MRPが一般化してきた頃に開発され、それ以来「装甲材はHGA以外にありえない」とまで言われる優秀な素材である。俗に「エネルギーを持つ装甲」とも呼ばれるが、原理的にはまさにそのとおりで、HGAはG粒子の特性を巧妙に生かしたものである。
G粒子は別名で結合変動粒子とも呼ばれる。静止状態のこれにエネルギーを与えて励起状態にすると、それは特定の方向に移動を開始することなく、原点を中心とする調和振動子となる。そして、この状態におけるG粒子は、周囲の物質の固有色量子数ncを変調させ、相互結合力を高めるという特性を持つ。
そもそもHGAは光子反応炉の炉心構造材として作られた材質が元になっているのだが、その構造は単純で、純粋G粒子を金属結晶内に組み込んだものである。それにより相互結合力が強くなると言うことはつまり物がより堅くなると言うことで、それ自体に意味があるのだが、装甲材としての利点はむしろ「与えるエネルギーによってncを変化させられる」ということで、これにより特定のncをもったMRPによる攻撃を防ぐことが可能であった。
要するにどういうことかというと、ncという色量子数を持ったR粒子が破壊できるのはncという固有色量子数を持つ物質だけで、それ以上のものもそれ以下のものも破壊することは出来ない。だから、HGAの結晶内にあるG粒子に与えるエネルギーを常に変化させ、ncを変動させてやれば、確率的にMRPによる破壊を免れる、と言うことである。
後述の各種半透体素子、フィルタ等も実はこのHGA系素材の一種である。
- XCA(EXpanded Core Armour/イクスパンディッド・コア・アーマー/イクサー):原子核間拡張装甲
- 現行の無人戦闘兵器群は主に前述のMRP、HGAの二つを攻撃・防御の要としているが、RGBシリーズはこのどちらも(殆ど)使用していない。それは、結局こういった「矛と盾」の関係を持つMRPとHGAでは安定したダメージコントロールをすることが出来ず、消費エネルギーの問題から継戦能力に疑問が投げかけられた結果である。
原子核間拡張装甲という名称からも窺えるとおり、これは金属結晶内の各原子の相互距離をむしろ極限まで離してしまい、敵弾を素通りさせてしまうという冗談のような発想から来るもので、ある意味HGAと対極に位置するものである。これは研究機関Blue Skyにおいて開発された画期的新素材であり、RGBシリーズ各機は、その性能を十全に発揮するために例外なくこのXCAを採用している。
しかし、そのXCAの原理は、意外なことにHGAと程近い。屋台骨を支えるのは、やはりG粒子である。しかしXCAの場合、結晶内にG粒子を組み込むのではなく、むしろ格子状に整然と並んだG粒子の周りに他の粒子を並べる、と言った方がイメージ的には近い。安定したフィールドの中に金属粒子を組み込み、機体として一つのシステムを構築するのである。そして、何よりXCA固有の特徴として、それらの格子構造の要点に自由電子的存在としてB粒子を配置していくことが挙げられる。いかに原子核間の距離が大きく、物質を素通りさせられる結晶構造であるとしても、一度その中を物質が通過すると、それに対する相互作用によって全体の力場に少なからぬ影響が出る。それを各部署で修正するのがB粒子の役割である。そして、RGBシステム起動中においては機体全体を重力子フィールドが包み込み、その存在をより安定したものとする。特に亜光速機動中においては、元来の質量が小さいためにその安定性は無理に結合力で押さえつけるHGAなどよりも遥かに高く、RGBシリーズ各機の抜きん出た高機動性を実現するために必要不可欠な要素となった。
ここまで書いてくるとXCAはいいこと尽くめのようなイメージであるが、勿論そんなことは無い。「物質を通過させる」ということは「触ることが出来ない」ということと等価である。一定のフィールドで完全に固定すれば、その反発力によって触れるようにはなるが、それでは敵弾を透過することが出来ない。つまり、肝心のパイロットを含めた操縦席周りは、XCAで構成することは出来ないのである。また、前述のように光子反応炉の炉心は中の高速粒子が外に漏れることを防ぐためにHGAに類する構造材によって構成しなければならないので、機体の正中線上に位置するこの2箇所だけは弾丸によってダメージを受ける。これだけは全くどうにもならない問題であったが、システムダウンに繋がる被弾個所が大幅に減ったことによる恩恵は明らかに大きかったため、当たる個所と当たらない個所を「ダメージポイント」「ゴーストアーマー」として領域区別し、各パイロットに「ここだけは攻撃されるな」と注意することによって一応解決したこととされた(結局根本的解決には至っていない)。
- #半透体
- McSPET(Mobile-Carbon-Semipermiator Photon Effect Transistor/マックSPET):可変組成炭素半透体光子効果トランジスタ
- 光子集積回路実現のために必要不可欠な素子。役割としては、電子集積回路におけるMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor/モスFET/酸化金属半導体電界効果トランジスタ)と同等で、光子回路におけるナノレベルスイッチの役割を果たす。
原理的にはそれほど複雑なものではなく、基本的には炭素結晶の中にG粒子を組み込んだもので、素材レベルではHGAの一種ともいえる。ただしHGAにおける金属粒子の代わりに用いられる炭素は特殊な性質を持っており、ベースからOFF信号を受信すると、G粒子の結合力変動作用によってその結晶構造が光を透過するダイヤモンド構造から殆ど通さない黒鉛六角構造へと瞬時に組み変わる。逆にON信号の場合は黒鉛からダイヤモンドへと変成し、光を透過するようになる。つまり、これが光ファイバーに対するスイッチの役割を担うわけである。
MOSFETにおける半導体(酸化珪素)と等価な役割を持つこの可変組成炭素(Mobile-Carbon/Mc)は、かつてのそれにちなんで半透体(Semipermiator)と呼ばれ、光子コンデンサやMcSPETの複合による光学論理素子など、様々な光子回路素子に利用されている。更にそれらの素子を半透体ウェハー上に緻密にパターン描画することによって、光子集積回路(Photon Integrated Circuit/PIC)が形成される。例えば動作周波数が物理限界にぶつかって今は「相」を増加させる方向に進化しつつある多相型光子プロセッサなどもその典型的一例であるし、或いはある程度性能を抑えた集積回路であれば、今や衣服の繊維中にも編み込まれている。
- 半透体フィルタ
- 前述の半透体を利用した素材で、やはりHGAの一種。同様にMcを使用するが、G粒子に与えるエネルギーを通常よりも3桁ほど大きくすると、炭素結晶の組成は六方最密構造となり、相互結合力がきわめて強くなっている所為もあって、それぞれの炭素原子間でパウリの排他率が及ばなくなる領域、つまり粒子が通過するだけの「隙間」が殆ど無くなる。この状態のMcを膜状に整然と並べたものがいわゆる半透体フィルタであり、G粒子のエネルギーレベル如何によって通過させられる粒子の大きさを任意に制限することが出来るという、優れた特性を持っている。
この素粒子レベルでの「ふるい」とも言うべき特性は様々な応用例があるが、代表的なところでは錬金炉の分解層で原色粒子をその他の粒子と分別するために効果的に使用されている。